8. La Vie en Rose
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好きなものがたくさんあるルーク・ハントと、ルーク・ハントだけを愛する僕の話。
成分表:ネームレス男主夢 | 恋人
「先輩は気にならないんですか、ああいうの」
ああいうのって、なに? と問おうとしたところで、その視線の先を駆けていく美しいブロンドを見つけてすぐに合点がいく。満面の笑みを浮かべてサバナクローの生徒を追いかけまわす、一人の生徒。僕たちと同じポムフィオーレの制服を着た彼は、ルーク・ハントという名の三年生で、僕の可愛い恋人でもある。
「ルークのこと?」
「はい。ハント先輩、いつもああやって誰かを追いかけているじゃないですか」
大きなヘーゼルの瞳をパチパチと瞬かせながら僕を見上げる、一つ下の後輩。よっぽど気になっていたのか、大人しい彼にしては珍しく「嫉妬とかしないんですか?」と身を乗り出してくる。
「別に、嫉妬をしないわけじゃないさ」
そう言いながら癖のある栗色の髪を撫でてやれば、彼はハッと息を呑んでから恥ずかしそうにその場に座りなおした。穏やかな昼下がり。青々と茂った芝生のうえで、柔らかな木漏れ日がキラキラ揺れる。
「ルークには好きなものがたくさんあるんだ」
磨きあげられたエメラルドのようにきらめく彼の瞳に映る世界は、いつだって愛と美に満ちている。それは彼がそうあることを望み、そんな世界を愛しているからだ。
「そして君や僕も、その「好きなもの」の一部なんだよ」
「それって、ひどくないですか?」
「ひどい? どうして?」
「その……特別になりたいとは思わないんですか?」
「特別」
「はい。自分だけを見てほしいとか……そんな風には思わないんですか?」
まっすぐ僕を見つめる双眸に、思わず「今日はたくさん質問がくる日だ」と苦笑する。
「すみません、ぼく……」
伏せられた長い睫毛が切なげに揺れ、栗色の巻き毛の下に隠れた小さな耳がほんのり赤く染まる。
可愛らしい子だ、と素直に思う。質問をするていで「自分だけを見てほしい」のだと訴えかけてくるいじらしさも、そのくせピカピカに磨き上げた爪の先まで緊張に打ち震えているようなところも。
「そうは見えないのかもしれないが、僕はもう十分「特別」なんだ」
膝の上で固く握り締められた手に触れ、僕よりも少し体温の高い指を一本ずつ開いていく。そのまま掌に食い込んだ爪痕を撫で、熱を持った耳元に顔を寄せる。
「ルークはね、いま僕たちがこうして彼を見ていることにも気づいているよ」
重大な秘密を共有するようにそう囁けば、華奢な肩が大きく揺れた。同時に、僕を射抜く鋭い視線。
「もしかすると、僕たちの話も聞こえているかも」
冗談めかしてそう続けてから、顔を上げる。中庭の噴水近くで足を止め、じっとこちらを見据える緑の目。夏の輝く太陽のようなその二つの宝石が、僕を捕らえる。
「それに……」
革の手袋の下に隠された手の熱さや、薄い唇から零れる艶のある声。鍛え上げられた背中が大きくしなる様子や、その身体の最奥が僕を求めて戦慄くことを知っているのは、この世界に僕一人しかいない。
「……それに?」
まだ変声期を迎えていない、柔らかな声。白く細い指が、僕のジャケットの裾をギュッとつかんだ。
その小さな身体全てを使って、僕への好意を示そうとする可愛い後輩。でも僕はこの子の名前すら覚えておらず、名前も知らない相手に僕の「特別」を説明してやるほど親切でもない。
「……僕にとって、彼は特別だからね」
そこに理由や理屈は必要ない。何故なら僕は僕の「特別」を世界で一番愛しているからだ。
J’aime deux choses, toi et la rose, la rose pour un jour et toi pour toujours.
(僕が愛するものは二つある。君と、薔薇の花だ。薔薇は一日だけ、君は永遠に)
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